2009年8月25日号
  「市民サービスの向上に役立ちたい」
 大阪府寝屋川市(馬場好弘市長)は地域のイメージアップなどを目的に、ブランド戦略室(市川克美室長)を今年4月に新設し、同室課長に在日コリアン3世で元客室乗務員の金明姫さん(41)を採用。7月2日就任した。
 民間企業で広報や接客などの業務に携わった人を対象に公募したところ、23人が応募、唯一外国籍の金さんが抜擢された。
 物腰が柔らかく、さわやかで知性あふれる金課長はまさに「寝屋川市の『金』看板」(馬場市長)と期待されている。
 地方自治体のイメージアップの顔として在日韓国人が選出されたことは異例で内外に新鮮な驚きを与えている。金課長に抱負などを聞いた。
       (聞き手・李相善本紙代表)
        プロフィール
        大阪市生野区生まれの3世。同志社大学工学部卒業後、三洋電機の研究所
        に入所。ノースウエスト航空客室乗務員、FEDEX顧客サービス業務等を経て
        数社で人材開発などに携わる。趣味はアロマセラピー。
―― 応募者23人の中から見事選ばれましたが、合格通知をご覧になったときはいかがでしたか。
 金 受かったことに対する喜びと、行政という新しい世界、畑違いの所で自分がこれからやっていけるのだろうかという不安と両方ありました。でも、どちらかというと、これから新しいことができるんだ、というワクワク感の方が大きかったですね。
 ―― ブランド戦略を進める上で、市をどのようにPRしていきますか。
 金 寝屋川という地域自体、大阪以外の方はよくご存知ないのではないかと思います。広く知っていただくために、これまで以上に寝屋川の良いところを発掘し、まさに寝屋川市のセールスマンとして外に発信していきたいと思っています。馬場市長がいつも「元気都市・寝屋川」をスローガンに掲げられているのですが、寝屋川市が元気になり活性化していけるよう、少しでも役立てればと思います。
 ―― 寝屋川市のこれまでのイメージは。
 金 高度成長期の間にベッドタウンとして住民数が飛躍的に増え、町開発ができないまま過密した住宅地帯になりました。とくに大きな産業があるわけではなく、対外イメージは比較的弱かったのではないかと思います。ですがその分、これから新たなイメージを持っていただきやすいのではないかと思っています。今は再開発が進み、駅前などまちの景色も少しずつ変わってきています。「寝屋川市にはこんないいところがあるんだ」というのをぜひお見せしたい。
 ―― 大阪府下で地域行政のブランドを高め、課まで置くというのは初めての試みですね。  
金 昨年4月に、これからのまちづくりはそれぞれのまちの持ち味を活かして、協働しながら、互いに住みよいまちを創造していきましょう、という自治基本条例ができました。それを具体的に取り組む1つの手法として、ブランド戦略室という部署が設けられました。どこの市でもそれに準拠したことはしているのですが、ブランド戦略室と銘打って設置したのは、今の所寝屋川市だけのようです。
 ―― 市の地場産業としては何がありますか。
 金 寝屋川市の大葉、しその葉は、市内打上地区で門外不出の種子を使い、改良を重ねて栽培され、その品質に定評を得ています。料亭などにも納入されています。
 ―― 開発事業で今、着手されていることは。
 金 現在、1つは香里園駅の東側に大学病院の建て替えなど、健康・医療を中心にした定住性の高い町づくりを構想しています。高層マンションをいくつか建てて、中心には大学病院があるというイメージです。また、寝屋川市駅前には地域交流センター、いわゆる文化ホールのほか、大阪電気通信大学のサテライトキャンパスの整備も進んでいます。幅の広い道路も作り、イベントができるようにもしたいですね。
接客・人材開発で経験積む
          
 ―― 外国人、韓国籍の方が市の課長になったというケースは全国でもまれだと思います。
 金 出身が生野区で、周りに外国人の方が多い環境で育ちました。中学、高校、大学と本名で通っていても嫌な思いをすることはありませんでした。今回採用していただいたということは、少なくとも市職員の方はそういうことは気にされていないのだと思いました。市民の方とはこれからお会いする中でどう感じられるのか分かりませんが、おそらくそこはあまり気にされないというか、一個人として見ていただけるのではないかと思っています。
―― 民間企業ではどのような分野に携わってきましたか。
 金 もともと大学は理系だったので、卒業後は三洋電機で研究所勤めをしていました。ただ私には肌が合わなかったというか、若いうちにもっといろいろな世界を見たいと思うようになり、航空会社に転職して客室乗務員になりました。
楽しい仕事ではあったのですが、とても体力のいる仕事でした。そこで3年ほど働いて、いろいろなことを見聞きして十分経験をさせてもらった20代後半のときに、そろそろ普通の仕事に戻らないともう使い物にならないだろうな、と思ったんです。
それから別の航空貨物の会社に就職し、お客様サービスのお仕事をさせていただきました。そのうちに管理職になり、部下ができてマネージメント、人を教育するような機会もあったことから、教育、とくに人材開発の分野にずっと携わってきました。
 ―― 一口に教育といっても、様々なアプローチがありますね。
 金 まず、それぞれの社員の方の能力を見極めることが大切です。例えば、この方は対人能力がどれぐらいあって、リーダーシップがどれくらいで、課題解決力はどれぐらいか。それらをある指標に基づいて測っていきます。
その後、それらの能力を引き出す方法、強みは活かし、弱みはカバーするといった教育を受けていただきます。そのプログラムを作るのも私の仕事でした。どこの企業も、またこのような行政の場でも、やはり人が大事だと思いますので、今もそういった能力開発には非常に興味があります。
 ―― ポテンシャルがあっても発揮できない人々をどうやってやる気にさせるかは難しいところだと思います。
 金 それはどこの職場でも悩ましい問題であり、大事なところです。当然、個人差もありますから、その人のやる気の元になるのは、皆違います。褒められて伸びる人と、叱られて伸びる人、仕事をいっぱい与えた方がやる気になる人もいれば、逆に落ち込んでしまう人もいます。個性に合わせて上司の方がマネージメントやリーダーシップを発揮することができればいいのですが、時間に追われ、仕事に追われとなると、どうしてもそこは後回しになってしまいがちです。
 
達成した喜びが原動力
                     金明姫課長(中央)の笑顔で課内の雰囲気が一気に和む 
                     「市の職員採用に国籍条項はありません」と話す山本實専門官(右端)
―― 職員全体のモチベーションを高め、より充実したサービスを提供するのも課長の重要な役割ですね。   金 はい。市民サービスの向上は、業務の1つの大きな柱ですから。市民の方が市役所に来られたときでも、「こうしてもらってよかった」と思ってもらえるようにしたい。元民間の者として、外から来た者の目線で気づくことがあれば、遠慮なく言ってほしいと言われています。
 ―― 就任会見では、大阪府知事や宮崎県知事に負けないPRをしたいと述べられていましたが、その原動力は。
 金 やり遂げたときの達成感、小さなことでも達成したときの喜びは素晴らしいということを知っているからだと思います。これまでの経験がちょっとした自信になっていて、またああいうことをしたいという気持ちになっているのかな、と思います。
 ―― 金課長のご活躍を期待します。本日はありがとうございました。