2009年8月25日号
        在日のグレードアップに努めよう
          自己鍛錬し鼓舞的存在へ
          本紙イタンビューにのぞむ金明姫課長(中央)と山本
          實専門官(右)  左端は李相善本紙代表
 
市役所課長に3世が就任

 大阪府の寝屋川市(馬場好弘市長)が7月2日、新設のブランド戦略室課長に在日3世で元客室乗務員の金明姫さんを採用したニュースは驚きを与えた。
 同市のブランド戦略室は広報活動を積極的に行い、市のイメージアップを図るのが目的だ。市の内外から23人が応募、書類審査と面接を経て金さんが選ばれた。
 先月9日に行った本紙インタビュー(5面に詳細記事)で金さんは「市のサービス向上に役立ちたい」と意気込みを語った。インタビューに同席した山本實同室専門官に在日韓国人を選んだわけを聞いたところ、「採用条件に、特別に国籍条件はありませんでしたから」との返事だった。「市の『金』看板ですよ」(馬場市長)と期待も大きい。
 どうして、行政のイメージアップの担当に在日韓国人を採用したのか。それも市の新設の課長職に。金さんの印象、そして試験の成績が他の応募者を圧倒したのだろう。
 在日韓国人が行政差別撤廃運動を掲げて約30年近くが経過。その運動の成果もあって、各地域で一般職の公務員が誕生している。
 なによりも嬉しいのは市のイメージアップに在日韓国人3世が採用されたことだ。在日コリアンへの差別蔑視は日本社会ではいまだに根強い。そのような社会風潮の中で、すい星のごとく登場した金明姫さんに、心から祝福と激励の拍手を贈るとともに、寝屋川市の公正な人選に敬意を表したい。
 おりしも、在日同胞社会は民団組織を中心に、永住外国人の地方参政権獲得運動が盛んな時期である。在日韓国人が国籍を変更することなく本名で、行政の管理職に就任したことは、行政差別撤廃運動にも大きな示唆を与えている。
 外国人であっても、自己を磨き、実力を武器に日本人社会で指導的地位に就くことが可能であるということを、身をもって示した金明姫さんの生き様に学ぶ点は多い。

出自隠さない安蘭けいさんに人気

 宝塚歌劇団でトップスターを務め、今年4月に女優として再スタートを切った安蘭けいさん。滋賀県湖南市出身の3世で、父は民団滋賀県県本部団長などを歴任した安相鳳氏だ。宝塚歌劇団との出会いは中学1年のとき、アボジに連れられてみた舞台に魅せられ入団を決意した。週3回宝塚市までレッスンに通った。高校に通いながら宝塚音楽学校を受験、4度目の挑戦で合格、念願のタカラジェンヌになった。
 91年に卒業し、同年月組公演「ベルサイユのばら、オスカル編」で初舞台を踏んだ。92年、歌、踊り、芝居と三拍子揃ったトップ候補として注目され、95年にはトップの登竜門新人公演主演。06年、入団16年目でトップに就いた。
 外国籍のトップは中国籍の鳳蘭さんに次いで2人目だ。芸名はアリラン伝説に登場するヒロイン「アラン」にちなみ、本名の「安」、故郷慶尚南道の「慶」をひらがなにした。宝塚の団員の前でも父の安相鳳氏をアボジと呼んでいた。日本のマスコミにも「在日韓国人3世の誇り」と堂々と紹介されている。
 熱烈なファンに安蘭さんの魅力をたずねると、「韓国人であることを隠すことなく自然体で明かしている気さくさがかえって人間的な魅力になっている」という。安相鳳氏は舞台には韓日の主要人士を必ず招待している。その外交効果は韓国の外交官に伍しても遜色ないものだろう。
 とかく自己の出自を隠しがちな日本の芸能界だが、安蘭さんの存在は韓国人と表明しても、その実力と人気は衰えないことを見事に実証している。
 志賀県甲西高時代の担任の雲山由美子教諭は、今も生徒に安蘭さんの話をよくしているという。「彼女は、『夢は見るものではなく叶えるもの』という言葉が好きだそう。その言葉のとおり、努力し、夢を掴んだ安蘭さんの存在は生徒の励みになっている」と語っている。
在日韓国人3世が日本の学校で憧れの的になり、生き方の上での1つのモデルになっているのだ。
日本社会の最前線を走る寝屋川市ブランド課長の金明姫さん、そして女優の安蘭けいさんの自己鍛錬した結晶は、民族的偏見を乗り越えられるということを如実に示し、在日同胞への鼓舞的な存在として輝いている。


新世代に見合う組織構築へ

         昨年11月29日のコリア国際学園文化祭でサムルノリを披露する生徒
      ら(左)。今年3月7日の金剛学園テコンドー道場開館式では部員らが
      模範演技を見せた(右)。未来を担う子どもたちがいきいき過ごせる同
      胞社会づくりは既存世代の責務だ
法務省入国管理局の統計によると、2007年度末段階の在日外国人の人口は215万2973人となり、過去最高を更新した。しかし、在日韓国、朝鮮籍はこの10年間で少しずつ減少し59万3489人となっている。中国籍が60万6889人で1位を占め、韓国、朝鮮籍は2番目だ。
 渡日した1世世代は現在、ほんの数%であと10年したら、ニューカマーを除いた在日同胞は日本生まれが100%になる見込みだ。
 在日同胞は解放から64年経過した。日本が敗戦後復興し、現在世界第2位の経済大国として成長した恩恵もあり、日本の各地域でそれなりの豊かな経済基盤を築いてきた。パチンコ、焼肉といった娯楽、食産業で大きな役割を果たしてきた。祖国に対しては、国家建設に莫大な費用を注いだ。88年のソウル五輪が象徴な例で、寄付金は100億円を上回ったのである。1世の故郷に錦を飾る愛国心の発露に他ならない。
韓国は1965年の韓日条約締結により有償無償5億kドルの資金が日本から提供され、経済発展の基礎にした。北朝鮮は1959年からスタートした帰国事業により、約10万人近い同胞を帰還せしめた。南北両政権は在日同胞を担保にして、祖国社会建設にまい進したのである。
 在日同胞はその歴史的誕生から100年を迎えている。1919年の「日韓併合」という植民地政策の結果、日本への渡航を余儀なくされた。そして第2次世界大戦、冷戦時代の結果、祖国に帰れず再び日本に住み着いた。
 1950年の6・25朝鮮戦争は米ソの代理戦争であり、南北の武力統一戦争であった。在日同胞も民団、総連という対立構図を構築した。
 それでも冷戦時代という環境の中で、多大な祖国愛、民族愛を発露してきた1世を称えたい。日本社会での差別と葛藤しながら次世代教育に奔走してきた1世の愛情には心から敬意を表したい。
 しかしながら、解放から60年以上経過していながら、いまだに、民団、総連と対立構造を維持している在日同胞は、海外同胞として世界に誇れるだろうか。すでに2世世代からは多くの孫が誕生した。孫の世代が成人になったとき、民団、総連という2分化状況の説明に窮する人は多いだろう。
 民団、総連の役員諸氏は10、20年後の在日同胞のあり方を展望し、3、4、5世に見合う組織形態を今から準備していかなくてはならない。未来の世代にまで分断の後遺症を継承させるつもりなのだろうか。
 日本の政権交代をにらみ、永住外国人地方参政権獲得運動に最大級の努力を傾ける民団だが、新世代を取り込む組織形態の見直しも並行してぜひ取り組んでいただきたい。総連も共和国への追従政策から脱皮しなくてはならない。祖国偏重ではなく在日同胞による在日のための組織に生まれ変わってほしい。
 冒頭に触れた金明姫寝屋川ブランド戦略課長、女優の安蘭けいさんのような優秀な3、4世の登場を喜び、在日同胞、日本社会を指導する存在としての在日コリアンのグレードアップに努めていきたいものである。