■オピニオン |
2024年2月17日
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世界アジア情勢と在日韓国籍・朝鮮籍・日本国籍同胞の課題 多様性を直視し人類史に挑戦しよう
本紙代表 李 相 善
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ロシア・ウクライナ戦争が始まってから、約2年が経過した。世界は二分化され、未だ終戦の見通しはつかない。ウクライナのゼレンスキー大統領は「ウクライナは母の国」だと主張し、プーチン率いるロシアと主権争いをしている。日本の岸田文雄首相は、昨年5月のG7広島サミットにゼレンスキー、米国のバイデン大統領を招待したが、停戦を呼び掛ける絶好のチャンスだったにもかかわらず、和平への具体案は何も出なかった。日本は停戦を呼び掛けるどころか、ウクライナへの防衛装備品提供などの支援を表明し、着々と戦争への道を歩き始めている。
日本は、世界唯一の被爆国である。原爆の恐ろしさを身をもって経験し、「核兵器のない国を目指す」と言いながら、その実、米国の「核の傘」の下に居座りつづけている。他方、中東の戦火がさらに拡大する事態が懸念されており、一刻も早く、攻撃の連鎖を断ち切らなければならない。昨年10月にイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘が始まって以降、もはやその混乱、影響は、ハマスとイスラエルに留まらなくなってきた。「既に世界は第三次世界大戦が勃発している」と米国のある学者は主張するが、重要なのは対処療法的な対策でなく、中東全体を見渡した総合的な和平案を立案することだ。
朝鮮半島情勢に緊張高まる
北の金正恩総書記は1月15日、最高人民会議(日本の国会に相当)で演説し、憲法を改正して韓国を「第1の敵国、不変の主敵」と定めて自国民を教育すべきだと表明した。また、憲法から、南北が掲げてきた統一原則の「自主、平和統一民族大団結」という表現の削除も主張。韓国との対決姿勢を強めた形だ。金正恩総書記は「80年間の北南関係史に終止符を打つ」と宣言、「和解や統一の相手であり、同族だという既成概念を完全に消し去る」として、朝鮮半島で戦争が起きた場合には、韓国を「完全に占領し、共和国に編入する方針を憲法に盛り込むべきだ」と主張した。加えて、金剛山国際観光局、民族経済協力局の廃止も決めた。韓国の尹錫悦大統領は閣議で「(あちらが)挑発してくれば、何倍にもして懲らしめる」と応酬し、北を敵視している。一連の出来事について、総連のある民族関係者は「売り言葉に買い言葉で、双方は上げ足を取っている。同じ民族なのだから、冷静に見ましょう」と冷めた見方をしていた。
ここで、かつての朝鮮戦争の概略を見てみたい。勃発した朝鮮戦争は第二次世界大戦の後、米ソ両大国が直接戦火を交えた国際戦争であり、冷戦構造を世界的に固定させるきっかけになった一大戦争である。38度線の南北に分断された人々は、同じ民族であるにも関わらず、手紙のやりとりもままならないどころか、敵として武器を手にし、対峙させられてきた。朝鮮戦争は世界20ヵ国が参加し、300万人余りの人々が死亡した。朝鮮半島には、今も離散家族が一千万人以上いると言われている。
仮の話だが、もし今、第二の朝鮮戦争が勃発したら、死傷者数は当時の何倍にもなり、核兵器を用いた未曾有の惨事を引き起こす現代戦になるだろう。一年ほど前、「北が釜山を襲撃する」というニュースが日本のマスコミに報じられた。もしそれが現実となっていたら、日本は戦争特需どころか戦火に巻き込まれ、ひいてはアジア全体が紛争化するだろう。まさに、朝鮮半島で第三次世界大戦が引き起こされる可能性が現実的にあるのだ。アジア・ユーラシア大陸の平和維持のためにも、朝鮮半島での戦火だけは絶対に避けねばならない。
世界の投資家が注目
何気なく、世界三大投資家・米国のジム・ロジャーズ氏の著書「お金の流れで読む
日本と世界の未来(PHP新書)」を読んでみた。見出しの「アジアの時代の到来―世界の負債は西洋に、資産は東洋にー」という文言が目を引いた。これからは、「アジアの時代」が来るという。現在、米国は有史以来最大の債務国(他国からお金を借りている国)である。対外純資産マイナス900兆円(2017年から)という数字は、他国に抜きんでている。ロジャーズ氏は同書で、この75年間で、米国、ヨーロッパ、日本、シンガポールなど、現在の負債は西洋に、資産は東洋のアジア諸国にあると記述している。また、「中国は毛沢東が1976年に死去するまで、最高権力者として振舞い、借金を背負うことなく繁栄を築き上げた。中国の資産によって世界の国々は随分助けられた」としている。それ以降、中国は金を借りる側にまわり、債務を抱える地方自治体、企業、個人が増え始めているが、それでも中国が依然として非常に大きな債権国であることに変わりはない。
韓国も同様のプロセス
同氏は、「韓国も同様のプロセスをたどっている」と指摘する。つまり韓国、朝鮮半島は、今まさに「大国への道」を走っているということだ。一方、日本は、腰を抜かすほどの赤字を抱えているのが現状だ。2017年の時点で、約898兆円の赤字を抱え、負債は今なお増え続けている。これだけの借金を返済するため、一時しのぎ、対処療法的な政策しか打ち出せず、またそのしわ寄せが押し寄せるという、どうしようもない悪循環に陥っている。借金返済のため、若者や子供たちの世代が、将来大人になったときの税収が充てられており、将来世代へ負担を押しつける形になっているのは大きな問題である。
このまま債務が増え続ければ、国はやがて終焉を迎えることになる。前述のジム・ロジャーズ氏は「もし私が日本人だったとしたら、日本を離れて他国に移住することを考えるだろう。30年後、日本の借金は今以上に膨れ上がり、目も当てられない状況になる。一体、誰がこの莫大な借金を返すのか」と述べている。そして、「これから北朝鮮、韓国の統一国家が世界で最も刺激的になるだろう」と予測している。同氏によれば、韓国は日本と同じように出生率がひどく、深刻な問題を抱えているものの、朝鮮半島統一により、その問題は軽減されるという。「北朝鮮には若者、若い女性が沢山いて、子どもを産むことに躊躇しない。日本や韓国は、不景気や就職難、女性の社会進出などに伴い出産、育児に対する意識が変わり、少子化の一因になっているが、統一により韓国の少子化問題が軽減される可能性がある」と、同氏は記述する。
繁栄が、必ずしも幸福に直結するとは限らない。だが、国が深刻な経済問題を抱えているときは、多くの国民が幸福でないことは、歴史が証明している。そして、繁栄している国にはほとんどと言っていいほど、しっかりとした外国人(移民)受け入れ政策・制度がある。国が繁栄していると人々の心に余裕が出て、他者に寛容になれる。外国人の受け入れは人々に多様性尊重の重要性を教えてくれ、新しいアイディアをもたらすきっかけにもなり、結果、国は益々繁栄するという好循環を生み出すのである。
韓国は世界の中で最も成長株
韓国の躍進ぶりは、目を見張るものがある。1950年代、60年代は、韓国の一人当たりのGDPは100ドルもいかず、ソウルのトイレはめちゃくちゃだった。それが、今はどうだろう。GDPは3万ドル台になり、世界資本圏上位10位内にまで浮上している。今や日本に肉薄し、追い越す勢いだ。韓国のサムスン電子は世界的企業になり、半導体産業は世界トップにまで上り詰めている。さらにK―POPなどの音楽、文化、芸術面で世界の人々を魅了し、ハングルは世界記録遺産、アリランは世界無形文化遺産になっている。ハングルは天・地・人を用いて構成されており、表現が宇宙的だ。
朝鮮半島、中国の国境沿いは、半導体の原料となるレアメタルや地下資源の宝庫という点も世界が注視するポイントであり、そのことは日本政府も日帝の植民地時代に地質調査などで調べ上げ、把握していることである。
在日コリアンも多様性を直視し人類史に足跡を
日本における在日韓国籍・朝鮮籍・日本国籍同胞が、その他の海外コリアン系同胞と違うのは、日本植民地宗主国のもとで、独自の歴史的背景とアイデンティティ形成をもって存在しているという点である。数は中国籍、朝鮮族を含むと100数十万余人になる(永住者、特別永住者含む)。世代別に見ると、1世の時代は終わりつつあり、2世・3世・4世の時代を迎えている。日本生まれの2世、3世の結婚は、大半が日本人との結婚で、日韓のハーフと呼ばれる世代が過半数を超えている。70代、60代、50代の子どもが結婚し、10代、20代の孫を持つ上の世代の人々が増えてきている。
K―POP文化は世界化され、日本でも10代、20代の韓流ファンが多い。ヘイトスピーチなどに代表される「嫌韓派」が一定限度存在はするものの、韓国に憧れをもち、渡韓する日本の若者も少なからず現れるようになった。在日社会においては、現在の国籍を問わず、自らのルーツや、民族の一員であることを自覚し誇りをもち、本名を名乗って生きる若い世代が増えている。他方、民団、総連にも属しながら、漠然と韓国名、あるいは通名でなんとなく生きている世代も多い。はっきりしていることは、日本政府は多民族・多文化共生社会実現を声高に謳いながら、日本国籍をもたない外国人の社会的な受け入れに対しては、極めて不十分な対策しかとっていないということだ。その証拠に、地方自治体では同じく多様性の尊さを謳い、外国人住民も大切な住民と言いながら、地方自治の選挙権を付与していない。それに伴い、民生保護委員、裁判所の調停委員も、国籍条項により、外国人住民はなることができない。市民税、所得税は徴収されても、そうした権利は一切ないのが現状だ。
来年は、解放80年を迎える。戦後生まれの世代が80歳を迎え、あと20年したら100年となる。在日韓国民団、韓国商工会議所の役員に、日本国籍取得者がなることも、今や珍しくない。日韓ハーフの世代で、日本国籍を取りながらも、熱く民族統一を主張する20代もいる。まさに、在日コリアンも多種多様なアイデンティティ、人生観を持つようになったといえよう。民団、総連という組織もそうした現実を直視しながら、人類史に平和をもたらすディアスポラ(離散定住集団)として、共生社会への道を開拓していっていただきたい。
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