2020年2月10日号
 在日同胞の渡日史を考察すると1920年代を起点とするなら2020年でちょうど100年になる。新年にあたって静かに考えてみたい。
 ある書物で読んだことだが、ドイツの戦前のアウシュビッツ収容所で当時の拷問にかかり、氷の洞穴に埋められながらも生き延びた人の手記を読んだ。それでも、生きていたことに対して肯定的にこの世の中を「イエス」と語っていた。人間はどんなに苦しくても生きていくのだろう。10年ほど前、元慰安婦の故金福童さんの講演の取材に行ってみた。
 金福童さんは凛としながら、慰安はねつ造だったとする世間の声に対して「15歳の娘が嘘を言うだろうか」と語っていた。「現に私がこうして生きているし、証言したい。日本に来て皆さんの前で生涯を語っているが、在日同胞の子弟のために十万円を寄付したい。皆さん明日を見つめて子弟のため頑張っていきましょう」と涙ながらに語っていた。
 元慰安婦の方が日本に来て在日の民族教育発展のために寄付をするその高貴さに驚きを覚えた。差別と抑圧に打ちひしがれた在日同胞、それでも3、4世の子弟をたくましく成長させようと1世、2世の親は渾身を込めて生きてきた。それでも在日同胞の存在、過去の歴史を振り返り「これでいいのか、何が問題なのか」。未来を見つめ、俯瞰してみたい。


中国・朝鮮族の台頭

 ここ数年、在日コリア系の人口構成に大きな変化がみられる。まず、中国・朝鮮族が台頭してきたことだ。日本に約8万余が存在している。おそらく数年以内に10万台に突入するだろう。
 これまで在日同胞といえば日本生まれの2世・3世が主流で韓国籍は45万人、朝鮮籍3万人、ニューカマー30万人、日本国籍30万人ほどだったが、中国・朝鮮族の移住によってコリア系が多彩になってきた。「在日コリアン社会」と今まで称してきたが、これからは「在日コリア社会」と称する方が、これからの多様性社会において適切だろう。今後、日本でコリア系の人々が文化的、経済的、社会的にダイナミックに活躍する展開を予測すると、胸が高まる思いだ。各出身別に歌、スポーツのコンテストを開催しても面白い。

在日韓国商工会議所の課題

 アジア経済の在日コリア社会の果たす役割を討論してみたい。日本にはソフトバンクの孫正義氏がいる。孫氏はルーツからしても在日の存在とは不可分な関係がある。孫氏のリードのもと、在日韓国商工会議所が日本商工会議所と提携してアジア経済の未来を語り合ってもらいたい。
 在日コリアン社会の構造的変化に今年は期待したい。兵庫商工会議所の趙a一会長が今年の新年会で「神戸市内にアジアンパークの建設構想」を発表、好評を得ている。「神戸にアジアンパークを設立し、地域経済に寄与し、社会の活性化に繋げたい。その為には世の中の安定と世界の平和を願う」と挨拶した。
 まさに経済プロジェクト構想のみならず、世界の平和と安定こそが前提との重要性を主張している。神戸の大震災から25年。「兵庫県には約4万人の在日がいる。我々は日本と韓国の友好の懸け橋になる。笑顔でもって過ごしていこう」と李圭燮民団兵庫県本部団長は震災を乗り越えた体験から、力強いメッセージを発している。
 日本社会との共存をしていく在日コリアンの決意を如実に語っている。社会の平和と安定の重要性をより痛感しているのだろう。在日の将来を語るのに、人類の未来を見つめる視野を学んでいきたい。