2016年10月15日号
    李俊揆・駐日韓国大使ロングインタビュー
 
 7月8日に着任した李俊揆・駐日韓国特命全権韓国大使。8月15日に行われた民団主催の光復節71周年記念式典で、民族伝統衣装の韓服で登壇し、朴槿恵大統領の慶祝辞を代読するなど、在日同胞社会でも存在感を示している。慰安婦問題合意の履行をはじめとする韓日関係改善に取り組む李大使は、在外国民問題を担当する在外同胞領事の大使なども歴任。在日同胞問題などについても手腕が期待される。韓日関係改善への手がかりや在日同胞への提言などについて聞いた。

(聞き手・李相善本紙代表 撮影・康誠凱)

 
お互いに努力する関係を築きたい


 ――着任されて3ヶ月を迎えますが、駐日大使を務めるにあたり、理念、抱負をお聞かせください。

私は40年近く、大韓民国の外交官として生きてきました。外交官として最も良かったという点は、私が国のために国の利益のために働くということです。私は仕事をする上で、物ごとを考える上で、どうすれば国のためになるか、それを考えて、見てきました。

 日本に大使として赴任することになりましたが大韓民国の外交官として、日本の大使になるということは、個人的に非常に光栄なことだと思っております。それは個人としての栄光、光栄に留まることなく、私が大使として働く間は、国のための何らかの形での貢献をしていきたいと思っています。

 在任中は、韓国と日本の関係を揺るぎない岩石の上に乗せて、未来志向的な関係に発展させていくこと、またさらに両国が最も親しい友達になるために、お互いに努力する関係になるための礎を作った大使として評価されたく思っています。そうするためには物ごとを処理する上で、原則を大事にしてそれに忠実に従うことが重要だと思います。

 私はこのような目標を達成するために、私が会う人々、多くの方々が日本の方だと思いますが、彼らから信頼を得ることが大変重要だと思っています。日本の方から信頼されるために、私としても最善を尽くし、そのためにも全ての人を私の友達にすることが非常に大事だと思います。


主張ばかりでなく相互の立場配慮も必要

――大使の任務の一つに慰安婦合意の確実な履行があります。

実はここ数年間、韓日関係がかなり厳しかった時期がありました。それにはそれなりの原因があったのかもしれませんが、そこまで悪化したことについては反省すべき点があるのではないかと思います。
 
 とくに韓日関係が悪くなると、日本に滞在されている同胞の皆様がかなり苦しめられますが、その点においては申し訳なく思っています。昨年末になされた慰安婦合意は、韓日関係が回復決定的なきっかけになったと思います。

 しかし、関係の順調な回復のためには、慰安婦合意がまず着実に履行されるべきだと思います。韓日間には慰安婦問題以外にも、いつ発生するかわからない問題がいろいろとあると思います。

 いかなる問題が発生するとしてもその問題を乗り越えて、未来志向的な関係を目指していくためには相互の信頼を構築することが重要だと思います。相手からの信頼を得るためには、常にこちらからの主張をするばかりではなく、相手の立場を考えて配慮する取り組みも必要ではないかと思います。

   
  韓日関係や在日同胞社会などについて真摯に語る李俊揆駐日大使 右は李相善本紙代表


メリット提示が組織活性化へ


 ――民団自体も打開策模索に腐心しているところです。

若者を含めた同胞の皆様が民団に加入し、行事に参加するためには、そうした人たちが民団に行けば、何かいいことがあり、そして利益があるということを知らしめるようなことがあればと思います。それはもちろん、容易なことではないと思います。しかしなんとかして、民団はそうした方法に進むよう取り組んでいくべきだと思います。また、団員以外の組織が大きくなったり、活発化したりすることに警戒感を抱くのではなく、韓人会が民団に協力できるような環境づくりなども必要だと思います。
 
 韓人会に民団の傘下に入ってくださいと言っても、それで問題が解決するわけではありません。韓人会が民団の傘下に入るとどのような利益があるか、そして活動にどのような手助けになるかということを提示していただきたく思います。3、4世の同胞の母国との結びつきが弱まったり、民族意識が弱まったりすることについては心配しています。しかしこのような問題は、昔のように韓国人だから歴史を学べ、韓国人だから韓国語を学べということでは解決しないと思います。


在日同胞に助けとなる母国の経済発展

――在日同胞の多くはウリマルを話せない。

自分が韓国の歴史を知っている、韓国語が話せることで自分に何か利益が出るということがあれば、自ら進んで勉強したり、学んだりすると思います。日本社会で自分が韓国人であることを明かすことで不利益を被るのであれば、家庭のなかで父に、あなたは韓国人だからと言われるだけでは状況は変わらないと思います。

 幸い、今は母国が以前の貧しかった時代ではなく豊かになり、経済的にも非常に力が増してきたので、在日同胞も韓国語が話せたり、そして韓国との結びつきを持つことが日本で生活する上で助けになる側面もたくさんあると思います。
大使館としても、政府としても、母国に対する民族意識を持ち、韓国語を話すことができる同胞の方々がプライドを持つことができ、個人的にも実質的な利益を与えることができる方法で努力していくべきだと思います。

 ――最後に在日同胞へメッセージを。

私が同胞の皆様に伝えたいことは、在日同胞の皆様のこれまで歩んできた道のり、母国、韓国に寄与されたこと、そして同胞の皆様が抱えている悩み、こうしたものを韓国内の誰よりも理解しているということです。

 民団、もしくは同胞の社会の皆様がこれから日本社会で繁栄し続けていくためには民団の改革が必要であり、そして同胞社会への活力を吹き込むことに大使として誰よりも強い応援軍になりたいと思っています。
民団と私、そして民団と大使館が明るい未来のためにともに悩み、努力していきたいということで、私の考えを受け止めてくださればと思います。
 
 ――ありがとうございました。


プロフィール:
1978年に外務部(現外交部)に入庁。日本との経済業務を担当する通商1課長(93年)や在日韓国大使館の参事官(96年)などを務めた。慶応大の訪問研究員を経て、在中韓国大使館の公使参事官や在外同胞領事大使、駐ニュージランド大使、外交安保研究院長(次官級)などを歴任。